音楽家のジストニアに対する治療院での施術の意義と役割


Health lounge

音楽家のジストニアについて、その6


2017-02-09


頸部ジストニア患者および書痙患者に、「西洋医学的観点から評価し判断された障害部位に対して、東洋医学的観点から構成した方法で鍼治療を実施して効果を認めた」研究が報告されています(尾崎ほか,2004)。さらに、こうした治療経験をふまえ、局所性ジストニアと診断されたピアニストとクラリネット奏者への鍼治療の有効性も示されています。

ピアニストの症例では、罹患側上肢の筋活動のバランスを改善することを目的に、上肢区を中心とした鍼治療をおこなっています。さらに、手指の微妙な動作コントロールを目指して、第2・3指間(上都)への置鍼を加えたことにより、8回の治療で著明な改善を認めています(井上ほか,2008)。

クラリネット奏者の症例では、鍼治療は週1回、両側上肢区に置鍼、患側の第4虫様筋、第4掌側、背側骨間筋、小指球、尺側手根屈筋に集毛鍼を行っています。そして、6回の治療で症状の改善傾向を認めています(福島ほか,2008)。

末梢部からの働きかけとして

局所性ジストニアに対する鍼治療の研究成果は、関西医療大学から継続して報告されています。そのなかの書痙への鍼治療は、音楽家のジストニアに対する施術を処方するうえで参考になります。

書痙には、「書字動作の円滑化を目的として書字を行う上肢と対側の上肢区、不随意運動の軽減を目的に書字側の風池穴、腕神経叢へのアフローチとして書字側の気舎穴に置鍼を行った」。また、「手掌部の皮膚・筋短縮の改善と知覚入力の改善を目的に、集毛鍼を用いて手掌部に刺激を加えた」とあります(尾崎ほか,2004)。

治療経穴の選択として、「書字動作時に起こる不随意運動は、東洋医学的には風邪により引き起こされると考えられ、その軽減を目的に風池穴を選択した」(井上ほか,2003)。中枢の機能障害によるジストニアという「筋緊張異常に対しての鍼治療は、罹患筋に対する循経取穴が有効である」との理論が述べられています(谷,2005)。

手法は違えども、施術部位は同じでは

カイロプラクティックと鍼灸は、施術方法も治効理論も全く異なる療法です。けれども、この両者は異なる主張しながら、結局、似たような部位を治療点に定めて施術をおこなっているように思われます。

たとえば風池穴は、側頭骨乳様突起下縁の高さで、僧帽筋と胸鎖乳突筋との間の陥凹中に取穴されます。その部位は、カイロプラクティックにおいて重視される後頭骨-上部頸椎の領域に属します。「カイロプラクティックの有効性、さらには最も難しい症状を取り除く方法を次々と開発していった」「B.J.パーマーは1930年に脳幹・延髄に影響を及ぼす場所は、上部頸椎であり、そこには人間と神との偉大なるスイッチがあると述べている」そうです(塩川,1999,p.30, 36)。

さらに、腕神経叢へのアフローチとして気舎穴が取穴されていますが、カイロプラクティックにおいても、同様の部位に操作・矯正刺激がされるでしょう。また、罹患筋への直接的な治療刺激として、手掌や上肢へのアフローチもおこなわれるはずです。

手法は全く異なる療法であっても、自然治癒力を促して病を癒すための治療刺激を施すべき部位には、本質的な違いはないのかもしれません。つまり、カイロプラクティックも鍼治療も、同じような部位に治療刺激を施しているといえます。ただ、治療刺激の性質に違いがあるかもしれません。

異なる性質の治療刺激の融合

施術を受けたとき、患者さんが感じる治療刺激には、2つの波があります。最初に「おっ、効いた!」という瞬間的な刺激があり、その後に「いい感じ〜」という余韻的な刺激が続きます。瞬間的な刺激が鮮明で、余韻的な刺激が長く持続するほど、高い施術効果が期待できると考えています。

カイロプラクティックでも鍼治療でも、上手に手技が施されたときは、この2つの治療刺激の波を感じることができます。そのなかで、カイロプラクティックは瞬間的な刺激を、鍼治療は余韻的な刺激を得意としているように思われます。

そこで当治療院は、局所性ジストニアに対する鍼治療の研究報告を参考にしながら、性質の異なる2つの治療刺激を融合するように、カイロプラクティックを中心として、症状により鍼治療を組み合わせて施術をプログラムしています。

施術の意義と役割として

音楽家のジストニアは治せる障害だという確信を伝える『どうして弾けなくなるの?』には、手指や前腕、肩にみる関節の運動制限や末梢神経圧迫による障害が、「ジストニアを生じさせる中枢神経系の変化にある程度関わっていると考えられる」と述べています。しかし、「一度症状が固定してしまうと、末梢神経の問題を解決しても、中枢で起こった変化を正常化したりジストニアを改善することは期待できない」としています(p.110)。

ただし、「末梢神経障害の治療は依然として重要である。なぜなら、その治療をしておけば、最善の状態でリハビリテーション過程を開始できるためである」といいます(p.110)。そして、ここに当治療院が行う施術の意義があるように思われます。

音楽家のジストニアの治療の主役は、楽器を用いた実際の動作特異性を考慮した訓練による新しい神経の再編プロセスをたどる神経リハビリテーションでしょう。当治療院の施術は、その脇役かもしれません。けれども、関節の可動性を高めることを得意とするところから、その任は十分に果たせるものといえます。また、手指を支配する神経経路に対して加えられる物理的な治療刺激は、中枢神経にも良い効果を与えるものと期待させます。


福島綾子・谷万喜子・井上博紀・高田あや・鈴木俊明・吉田宗平(2008)クラリネット奏者の局所性ジストニアに対する鍼治療効果.関西医療大学紀要,2:p.103-108.

井上博紀・谷万喜子・高田あや・飯塚朋子・鈴木俊明・若山育郎・吉田宗平(2003)動作分析と東洋医学的観点から考察した書痙患者2症例に対する鍼治療.関西理学療法,3:p.127-131.

井上博紀・谷万喜子・高田あや・西村栄津子・酒井英謙・鈴木俊明・吉田宗平(2008)ピアニストのmusician’s crampに対する鍼治療効果.関西医療大学紀要,2:p.79-84.

ジャウメ ロセー イ リョベー・シルビア ファブレガス イ モラス 編・平孝臣・堀内正浩 監・NPO法人ジ ストニア友の会 訳(2013)どうして弾けなくなるの? 音楽家のジストニアの正しい知識のために.音楽之友社.

尾崎昭弘・若山育郎・田中秀明・鈴木俊明・新原寿志(2004)ここまでわかった鍼灸医学:基礎と臨床との交流 筋疾患および筋機能・代謝における鍼灸の効果と現状.全日本鍼灸学会雑誌,54(5):p.698-716.

塩川満章(1999)臨床カイロプラクティック 哲学・科学・芸術.ルネッサンス・ジャパン.

谷万喜子(2005)鍼灸治療における治療経穴選択の理論的背景.関西理学療法,5:p.47-50.



脊柱矯正・鍼療法

ほんがわ治療院

171-0022
東京都豊島区南池袋2-13-10 キャッスル小林3階

03-3988-3467 完全予約制

momiryouzi@hkg.odn.ne.jp

施術時間
月・火:10:00〜12:00,15:00〜18:00
水・木:お休み
金・土:10:00〜12:00,15:00〜18:00
日・祝:お休み