思い出したように話す症状に、問題が隠れている


Health lounge

音楽家のジストニアについて、その4


2017-02-09


音楽家が、初診で当治療院に来院される場合、施術が終わる頃になって「じつは、腕も」などと話されることが少なくありません。楽器の演奏により傷める身体部位として、「最も故障の多い部位は、指を動かす筋肉が付着する手や前腕である」といわれます(古屋,2011)。

手や前腕の症状は、音楽家としてのキャリアを傷つけかねない問題です。いくら施術を受けるといっても、主訴でない限りは、気安く話せることではないでしょう。

問題の根本にある症状は遠回しに語られる

本当の悩み、気になっている症状は、別の症状で包み隠しながら遠回しで語られるものです。後になって話す症状にこそ、問題の根本があるかもしれません。

音楽家が思い出したように手や前腕の症状を訴えるときは、単純な運動器疾患ではなく、別の疾患を深層に隠している危険性を疑うようにしています。その問題の一つとして局所性ジストニアがあります。

演奏するときだけ生じる不随意運動

局所性ジストニアという症状は、「たとえばピアニストの場合、普段の日常の作業においては何ら変わったことが無いのに、ピアノを弾くときだけ指が言うことを聞かず、自分の意思とは違う鍵盤を押してしまう、または力のコントロールが利かなくなってしまう」不随意運動のことです。「その初期段階において『今日は何だか調子が良くないな』『このフレーズを弾くときに限って手指がこわばって動きが悪いな』という感覚があるのみで、特に身体的な痛みがある訳ではない」とされます(中野,2015)。

楽器を正しく演奏するためには、意図する細やかな運動を自然な動作として、意識することなく自在に遂行できるだけの能力を養わなければなりません。このような運動を実行する全ての過程において、大脳皮質、視床、脳幹を結びつけている大脳基底核が関与しています。

大脳基底核は随意運動に際して、運動の動機づけや意志といった内部刺激として働くことで運動の計画に作用します。また、運動の開始を促し、運動学習後はその運動を自動的に実行することにも作用しています。正しい随意運動を獲得するためには、「運動課題の実行イメージ」を作り出すうえで大脳基底核を充分に働かせることが必要になります(鈴木ほか,2002)。

ところが、長年にわたって繰り返される同じ演奏動作のなかで、大脳基底核を含む神経系の働きに変調が生じると、楽器を演奏するときだけ意図とは違った不随意運動が出現するようになります。この局所性ジストニアには、「大脳基底核の機能異常、皮質運動野・基底核・視床ループの過興奮、広範な感覚系の機能異常などが存在する」ことが明らかにされています(平・堀,2004)。

手腕の疲労、首肩のコリ感に紛れて

国内の音楽大学生を対象に音楽家のジストニアの実態を調査した研究によれば、ジストニアという疾患について「71%の音楽大学生が認識しておらず、指導者側においても認知度が低い可能性がある。患者はジストニアが生ずると練習が不足していると解釈し、さらに練習に励むと考えられ、症状の増悪を招くこととなる」と指摘しています(小仲・望月,2015)。

音楽家が手や前腕の違和感、不調を訴えるとき、発症前のジストニアの“種”が隠れているかもしれません。漫然と施術を続けていては、取り返しのつかないことになります。思い出したように語られる症状にこそ、細心の注意をはらうよう心掛けています。

大切な身体を他人任せにしてはいけませんが

音楽家のジストニアについて記した『どうして弾けなくなるの?』には、「援助を求める演奏家の割合が少ないのは、おそらく演奏家の多くがキャリアを積んできた中で、演奏上の問題を一人で解決してきた経験によると考えられる」とあります(p.23)。

身体をいたわることは、自らの責任です。しかし、それは正しい知識に基づいておこなわれる必要があります。我流の治療や養生には、良いことはないでしょう。

音楽家でなくても、自分が理解できない、あるいは納得できない治療方法は、継続して受けることはできないものです。当治療院では、患者さんと協力して症状の改善に取り組むことを目指し、施術に関する説明は十分におこなうよう心掛けています。

ただし、院長は音楽に関して全くの素人です。けれども、この素人に症状を分かりやすく説明するなかで、患者さん自身が隠れている症状に気がつくという効果もあるようです。


古屋晋一(2011)楽器演奏のパフォーマンスを阻害する筋収縮.バイオメカニズム学会誌,35(3):p.168-175.

ジャウメ ロセー イ リョベー・シルビア ファブレガス イ モラス 編・平孝臣・堀内正浩 監・NPO法人ジ ストニア友の会 訳(2013)どうして弾けなくなるの? 音楽家のジストニアの正しい知識のために.音楽之友社.

小仲邦・望月秀樹(2015)音楽大学生における音楽家のジストニアの実態調査.臨床神経学,55(4):p.263-265.

中野研也(2015)演奏家のジストニアの実践的対処法に関する考察:演奏者の視点から.仁愛大学研究紀要 人間生活部篇,7:p.117-125.

鈴木俊明・谷万喜子・鍋田理恵・若山育郎・吉田宗平(2002)正常動作の神経機構.関西理学療法,2:p.1-9.

平孝臣・堀智勝(2004)ジストニアに対する脳神経外科治療.脳神経外科ジャーナル,13(5):p.353-362.



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