音楽家のジストニア(指)

施術の要点


Treatment description

音楽家のジストニアとは

音楽家にみられる局所性ジストニアは、「主に演奏時にのみ、ピアニストや弦楽器奏者の手指の筋、あるいは管楽器奏者の唇周りの筋を不随意に収縮させる難治性の疾患」のことです(古屋,2011)。この病気は、字を書こうとするときだけ、自身の意思に反して手指に力が入ってしまい、書字が困難になる書痙と同じ運動異常症の一種といわれます(旭ほか,2011)。

局所性ジストニアでは、「たとえばピアニストの場合、普段の日常の作業においては何ら変わったことが無いのに、ピアノを弾くときだけ指が言うことを聞かず、自分の意思とは違う鍵盤を押してしまう、または力のコントロールが利かなくなってしまう」不随意運動がおこります(中野,2015)。

楽器を奏でるには、意図する細やかな運動を自然な動作として、意識することなく自在に演奏できるだけの能力を養わなければなりません。このような運動を実行する全ての過程において、大脳皮質、視床、脳幹を結びつけている大脳基底核が関与しています。

長年にわたり繰り返される同じ演奏動作のなかで、大脳基底核を含む神経系の働きに変調が生じると、楽器を演奏するときだけ意図とは違った不随意運動が出現するようになります。この局所性ジストニアには、「大脳基底核の機能異常、皮質運動野・基底核・視床ループの過興奮、広範な感覚系の機能異常などが存在する」ことが明らかにされています(平・堀,2004)。


施術の基本方針

「ジストニアは一般に対症的に対処した場合でも、脳内機序が改善することがあり、末梢を含めた神経ループか発症に関与している」ことが示唆されています(平,2011)。

ジストニアは、脳内だけでなく末梢神経にいたる広範な感覚系の機能異常が発症に関与しています。そのなかで、演奏の細やかな動作を制御している神経伝達回路に末梢から物理的な治療刺激を入力することにより、ジストニアを発振させるルーティーンが崩され、脳内機序の改善が促されることが推察されます。

音楽家のジストニアは治せる障害だという『どうして弾けなくなるの?』では、手指や前腕、肩にみる関節の運動制限や神経障害が、ジストニアを生じさせる中枢神経系の変化にある程度関わっているとしています(p.110)。また、複数の動作の再訓練の結果を連鎖させる戦略として、バランスのとれた体位を楽器練習にうまく適応させる訓練を紹介しています。そのなかで、肩甲骨を安定させる筋肉を強化することに集中することを述べています(p.169)。

当治療院では、たとえば指の不随意運動が尺骨神経の支配領域に生じる場合、以下の反応点に注視して施術をおこないます。

1)下部頸椎から第4,5指(尺骨神経の走行経路)

2)上部頸椎(中枢に近い刺激点)

3)鎖骨−肩関節−肩甲骨(胸郭出口部と肩甲上腕リズム)

末梢にみられる神経の機能障害(過剰な緊張状態)や関節の機能障害(固着・歪み)を整えるように、運動刺激や押圧刺激などを加えます。ただし、ジストニアの症状が固定されると、末梢の機能障害を改善するだけでは、脳(中枢)で起こった変化を正常化してジストニアを改善することは難しいと思われます。

楽器を正しく演奏できるようになるためには、脳の再学習をはかるリハビリテーションが不可欠と考えます。末梢から治療刺激を施しながら機能障害を改善することで、そのリハビリテーションが効率よく、効果的におこなえるようになると期待されます。


矯正刺激ポイント

1)下部頸椎から第4,5指

施術の第一は、手指や前腕にみられる過緊張が十分に緩和するまで、関連する筋肉や関節に柔軟操作を続けます。ジストニアは、脳内だけでなく末梢神経にいたる広範な感覚系の機能異常が発症に関与していることから、症状部位を支配する神経の走行経路に沿って圧痛、硬結、関節の機能障害を癒します。

演奏の細やかな動作を制御している神経伝達回路に、末梢から治療刺激を入力することで、ジストニアを発振させるルーティーンを崩しながら、脳内機序にも望まし影響を与えることを目的として施術をおこないます。

2)上部頸椎

施術の第二として、手指や前腕、上肢帯の過緊張が軽減した頃より、上部頸椎への治療刺激を積極的に施してゆきます。とくに、脊柱両側の皮膚温差の波形にみられるパターンに変化が現れること、左右差がなくなることを改善の指標として、上部頸椎への操作・矯正を継続します。

カイロプラクティックによる治療刺激が、脳幹や延髄に最も影響を及ぼす部位とされる上部頸椎に、歪みを整える方向から矯正を施します。さらに、ジストニアの症状が現れる手指や前腕、その領域を支配する神経の走行経路にみられる過緊張を緩和したり、可動性の改善を促したりするように、筋肉や関節に操作・矯正を加えます。また、矯正刺激への反応をみながら、関節操作・矯正の補助療法として鍼治療をおこないます。

3)鎖骨−肩関節−肩甲骨

肩甲骨の可動性を高めながら、胸郭出口部もゆるめていきます。症状の責任部位として、手指や前腕を支配する神経の機能が障害されやすい胸郭出口部に矯正刺激を施します。手指や前腕だけでなく、肩甲骨の可動性にも注目して、持続的な押圧もしくは鍼による治療刺激を加えることがあります。


施術の注意として

脳には、自ら再編し変容する能力があります。この神経系に備わる能力を最大限に利用して、新しい神経の再編プロセスをたどる神経リハビリテーションと協力していくことが、音楽家のジストニアをみる当治療院の課題かもしれません。

音楽家のジストニアに関連するリハビリテーションの知識と技能を習得すべく心掛けています。ただ、いまだに楽器を用いた再訓練を実施している機関・施設との協力がなされていないことが残念でなりません。もっとも、当治療院に来院されるジストニアを主訴とする患者さんの大半は、ジストニアに関する相応の知識があり、それなりの再訓練も受けておられるようです。

患者さんの希望を損なうことなく、また夢のような期待を持たせることなく、医学的な根拠に基づく施術ができるよう心掛けています。


旭雄士・柴田孝・赤江豊・中嶋剛・平孝臣・浜田秀雄・田口芳治・林央周・桑山直也・遠藤俊郎(2011)書痙に対する視床凝固術:当院での手術経験.富山大医学会誌,2(1):p.25-27.

ジャウメ ロセー イ リョベー・シルビア ファブレガス イ モラス 編・平孝臣・堀内正浩 監・NPO法人ジ ストニア友の会 訳(2013)どうして弾けなくなるの?〈音楽家のジストニア〉の正しい知識のために.音楽之友社.

平孝臣・堀智勝(2004)ジストニアに対する脳神経外科治療.脳神経外科ジャーナル,13(5):p.353-362.

井上博紀・谷万喜子・高田あや・飯塚朋子・鈴木俊明・若山育郎・吉田宗平(2003)動作分析と東洋医学的観点から考察した書痙患者2症例に対する鍼治療.関西理学療法,3:p.127-131.

中野研也(2015)演奏家のジストニアの実践的対処法に関する考察:演奏者の視点から.仁愛大学研究紀要 人間生活部篇,7:p.117-125.

谷万喜子(2005)鍼灸治療における治療経穴選択の理論的背景.関西理学療法,5:p.47-50.



脊柱矯正・鍼療法

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