自然治癒力の源は、どこにある?

なぜ、脊柱を整えることで症状が改善するのでしょうか。また、脊柱の歪みと病気には、どのようの関係があるのでしょうか。

私たちに内在する病気を治す力、自然治癒力により症状は緩和し、やがて治癒するものです。ヒポクラテスは、「病は自然が治し、神は傷を癒し、我はただ包帯をするのみ。人間には偉大なる自然治癒力があり、その力を引き出すのが治療の鍵である」という言葉を残しています。

病気を癒す自然治癒力の働きは、フランスの生理学者であるクロード・ベルナールが提唱する「ホメオスタシス(生体恒常性)維持機構」ともいえるでしょう。ホメオスタシスとは、体内環境を一定の良い状態に維持するための働きのことです。この生命活動の基礎となる働きにより、外からの刺激や変化に順応して、望ましい健康状態を保てるのです。このホメオスタシス維持機構は、神経系・内分泌系・免疫系が密接に関連して働いています。そのなかで神経系は、とくに重要な働きを担っています。

何らかの理由で体内環境が乱れたり、組織が障害されたりすると、ただちに異常は検出され、神経を介して脳に伝えられます。脳では、集められた情報を処理して、適切な反応をするための命令を、神経を介して各組織に送ります。そして、身体各機能を総動員して修復し、正常な状態に復帰させます。このように脳と全身は、神経系のネットワークの輪で結ばれています。そして、この神経系のネットワークの輪を情報が滞りなく流れることで、体内の健康が維持されています。

カイロプラクティックでは、この「脳から遠心性神経を介して組織細胞への伝達と、組織細胞から求心性神経を介して脳に帰っていく、神経サイクル」が安全ピンに似ているので、安全ピンサイクルとも呼ばれています。そして、常に100%のメンタルフォースが「体の隅々まで神経を介して伝達される」状態を健康だとしています(塩川,1999)。

ところが、「症状が緩和されない」「いつも具合が悪い」という方がおいでになります。ヒポクラテスの格言から察すれば、自然治癒力の働きを引き出すことができない状態にあると考えられます。また、クロード・ベルナールの説からみれば、外からの刺激や変化に、体内環境がうまく順応できない状態にあるといえます。このような状態のときは、神経系のネットワークが正常に機能していないのかもしれません。

私達の身体に備わっている、病気を癒す力(自然治癒力)の源は、どこにあるのでしょうか。カイロプラクティックでは、それは脳にあると考えています。脳には、生命を維持するための情報が全て備わっています。その脳からの指令が、100%身体の隅々にまで行き渡るとき、人は健康を維持することができるのです。

ところが、神経系のネットワークの流れに乱れが生じることがあります。すると、脳からのコントロールを失った部位は、自然治癒力が低下して組織は弱化します。そして、ちょっとした事を引き金にして、簡単に障害されるようになります。また、修復にも手間取るようになり、病態の「火の粉」がくすぶり続けます。この病的な状態は、神経を介して関連する部位にも飛火します。このように神経系のネットワークの乱れは、支配する領域を病的な状態にして、様々な症状をつくる下地(根本原因)となりえます。

DDパーマーは、病気と神経の関係について、次のように述べています。

病気はトーンが過剰になったり過少になったりして起こる
大半の病気はトーンが過剰になった場合に生じる

このトーンとは、「神経の正常な緊張の謂いである」といわれます。そして、「カイロプラクティックの基本原則はトーンである」とされます(増田,2000)。

DDパーマーは、神経の緊張の程度が健康か病気かを決めるといいます。そして、神経の緊張度の過多や過少が、病気の根本にあると考えました。さらに、神経系の過不足ない流れ(トーン、緊張度)を整えるとき、自然治癒力という「内なる力」が症状を癒し、自律的に病気を治してくれるというのです。

神経系のネットワークのなかで、とくに障害のおきやすい場所は「脊柱」です。脊柱は、体を支える「柱」の役割を担っています。また、脊髄を通す「管」を構成しています。さらに、脊髄から全身に伸びる神経が出入りする「穴」も構成しています。このように、脊柱は、複雑な構造で体を支えながら大きく動きます。そのため、日常生活のなかで、常に負担がかかっています。

脊柱は、負担が限度を超えると、疲弊して正常な動きを失い、固着していきます。そして、固着した状態が続くと、警告の痛みを発するようになります。この痛みは、筋肉を硬くして、さらに脊柱の固着を強くします。すると、血液循環も阻害されるようになり、組織は弱化して、やがて歪みが作られてゆきます。

また、脊柱の固着や歪みは、過剰な刺激を発します。そして、近くの脊髄や神経根に悪影響を与えるようになり、緊張度に過不足が生じます。この神経系の乱れにより、脳からの統制(自然治癒の働き)を失った部位は、変調をきたして、思わぬ症状を呈するようになります。

カイロプラクティックでは、神経の正常な働きを阻害している脊柱の歪みや固着に、矯正刺激を施します。そして、神経系のネットワークを整えることで、自然治癒力が働きやすい環境をつくります。そこに、病気の根本を取り除く自然医療としてのカイロプラクティックの本質があります。

矯正刺激を施すとき、「ポキッ」という音がすることがあります。これは、決して関節面がこすれて生じる音ではありません。

脊柱に固着や歪みという負荷が加わると、関節内の圧力は異常に高くなります。そして、硬くなった関節は、脊柱の可動性を制限します。ところが、脊柱の固着をゆるめ、歪みを整える方向に矯正を施すとき、伸ばされた関節内で気泡となったガスが、関節の中心部に集まります。そして、関節内の負の圧力が失われたとき、「ポキッ」とはじける音がします。

この音は、「関節の空隙化」と呼ばれます。矯正を施して空隙化した脊柱は柔らかくなり、可動性は増大します。また、脊柱が正常に動くことで、筋肉や靭帯がストレッチされて、関節周辺にある感覚受容器も刺激されます。そして、この太い感覚神経への刺激が、痛みを伝える細い神経の働きを抑制することで、痛みを和らげてくれます。

脊柱への矯正は、固着や歪みを整えながら、神経への異常な刺激を軽減し、神経伝達サイクルの乱れを癒します。そして、関節周辺の感覚神経の働きを促すことで、神経の緊張度を整えます。こうして、神経系のネットワークの乱れを癒し、自然治癒力が働きやすい環境をつくることで、多くの症状に良い効果をもたらします。

頚椎や腰椎には、日常的に相当の負担がかかっているため、固着や歪みが生じやすくなります。そして、この固着や歪みを根本原因として、頭痛や肩コリ、腰や膝の痛みなどがおきます。このような運動器疾患は、カイロプラクティックが適応とされる症状です。

カイロプラクティックが有効なのは、運動器疾患に限られるわけではありません。病態が慢性化するに従い、自律神経の働きが乱れるようになります。自律神経のバランスが乱れると、冷え、ほてり、精神的なイライラ、不眠、下痢や便秘、全身の倦怠感などの不定愁訴が生じることがあります。

このような複雑に絡み合う症状こそ、その病態の根本にある原因を癒し、全体の調和を整える必要があります。カイロプラクティックは、病気の根本原因を取り除く療法として、自然治癒力が働きやすい環境を整えます。この成果から1997年1月、WFC(世界カイロプラクティック連合)は、正式にWHO(世界保険機構)への加盟が承認されました。現在では、自然医療を見直す動きが、医療技術の進んだ先進国ほど活発になっています。それと同時に、内側から自然治癒力を高めるカイロプラクティックへの期待が高まっています。


増田裕(2000)カイロプラクティックの基本原則はトーンである.カイロプラクティック神経学(3).Spinal Column;103:p.8-9.

塩川満章(1999)臨床カイロプラクティック 哲学・科学・芸術.ルネッサンス・ジャパン.p.17-18.