急性期の痛みに「もむ」は不適当です

からだには、治ろうとする働きをつかさどる自然治癒力が内在しています。その自然治癒力は、病を治す最良の方法も知っています。たとえば、操体法の創始者である医師 橋本敬三先生は、次のように述べています。

ああいう野生の動物っていうのは、自分で自分のからだを治す方法を知っている。自分の勘で治してしまうんですね。勘-私はこれを原始感覚とも言っているが、この感覚は本来人間にも備わっているものだ。自分の原始感覚に従って、自分のからだに合った行動をとり、食物をとったりする。私たちの先祖は、まさにそういう生活をしていました。やはり自分で自分のからだを治す知恵を持っていたんだ。 (中略) この授かりものを、人間は、進化するに従って、知識や文化が進めば進むほど、その方にばかり気をとられてしまって、もはや忘れ去ろうとしているが、この原始感覚が鈍磨して、しだいに知識偏重の生活に切りかわっていくほど、私たちの健康な生活からしだいに遠ざかり始めているのだ、ということに気が付かなければ、今に大変なことになると思えてなりません。

無意識の行動には、適切な施術へのヒントがあります。そこで、「症状に対処した無意識の動作」として急性症状を例に、私の理解をお話します。

受傷直後に「痛みを和らげてほしい」とマッサージを希望される患者さんがいます。とくに、初めてお電話をいただくギックリ腰の患者さんにみられます。しかし、当治療院では、急性期の痛みには、原則として患部へのマッサージをいたしません。それは、炎症の強い急性期の痛みは、マッサージで軽減をみないからです。そればかりか、患部をマッサージすることで、症状を悪化させる危険もあります。

そのことは、私たちが無意識におこなっている、痛みへの対処法を思いおこせば理解できます。たとえば、「足首を捻挫したとき」など、どのような行動をとるでしょうか。 足首を捻った瞬間、患部を手でギュッと強く圧迫して、鋭敏な痛みを和らげようとするはずです。そして、患部を強くさすったり、固定したり、冷やしたりて痛覚を抑制するでしょう。こうして、痛みが治まってきたころをみて、反射的に硬くなった筋肉をモミながら、「あぁ~痛かった」と一息つくものです。

これらの行動は、すべて神経生理学に基づいた鎮痛のメカニズムにより説明がつきます。しかし、そのような難解な理論を知らずとも、「痛い痛い」といいながら患部をもみほぐす人はいないはずです。なぜなら、からだは痛みを和らげる方法を無意識にも知っているからです。

当治療院では、ギックリ腰を発症した直後から3日間は、直接的な手技療法を腰部に施しません。ただし、痛みによる過剰な筋肉の緊張を和らげるように、下肢からの持続的な押圧やストレッチをおこないます。また、皮膚からの抑制刺激として、円皮鍼やテーピングを施すことで和痛を促すこともあります。

しかし、急性の炎症が強い時期の疼痛には、「安静・固定・冷却」を基本とするほうが望ましいでしょう。とくに、マッサージで腰部の筋肉をゆるめるのは、急性期を過ぎてからと考えます。


橋本敬三(1978)からだの設計にミスはない 操体の原理(2)柏樹社.p.22-23.