過活動膀胱 尿意切迫感

症状・原因

過活動膀胱は、排尿の意思とは関係なく、勝手に膀胱が収縮してしまう病気です。膀胱の知覚が過敏になっていて、少量の尿がたまったり寒冷刺激を受けたりすると、すぐに膀胱が反応して収縮し、急におしっこがしたくなります。この尿意切迫感という自覚症状があるとき、過活動膀胱といわれます。

40歳以上の年代層で810万人(12.4%)が過活動膀胱を有しているとされている。高齢化が進行している現在、今後、高齢者の排尿の問題はさらにクローズアップされてくる。(岡村ほか,2007,p.5-6)

1) 尿意切迫感

急におしっこがしたくなる、我慢するのが難しい強い尿意で、尿をもらしてしまいそうな感じ

2) 頻尿

トイレの回数が多くなり、1日に8回以上排尿がある

3) 夜間頻尿

夜、寝ている間に何回もトイレに起き出す、排尿のために1回以上起きる

4) 切迫性尿失禁

強い尿意が急に起こり、トイレに間に合わず、尿をもらしてしまう

過活動膀胱の原因には、神経因性(神経が原因と考えられるもの)、非神経因性(神経以外が原因と考えられるもの)に分けられます。

神経因性の過活動膀胱

1) 脳の障害が原因で起こるもの (脳血管障害、脳腫瘍、パーキンソン病)

2) 脊髄の障害が原因で起こるもの(脊髄損傷、多発性硬化症、脊椎・脊髄の病気)


脳に障害があると、脳から排尿を止めておくための指令が送られないことで、膀胱に尿が溜まると無意識に排尿してしまう場合があります。

脊髄に障害があると、膀胱に尿が溜まっている情報を脳に伝えることが阻害され、排尿を止めておく指令が送られず、無意識に尿が出てしまうことがあります。

非神経因性の過活動膀胱

1) 加齢

2) 骨盤底の弱化、筋肉や靱帯が弱くなったもの

3) 下部尿路閉塞、男性の前立腺肥大症・女性でも骨盤臓器脱などにより尿路がふさがれたもの

4) 冷え、寒冷刺激

5) 特発性のもの(原因がはっきりしない)


年齢が高くなると、膀胱で排尿を止めておくという脳からの指令を受け取る機能が弱くなります。

出産や加齢により骨盤内の筋肉や靱帯が弱くなると、尿道や膀胱が不安定になります。

手足の冷えや寒冷刺激を尿意と誤認して、膀胱が収縮します。

前立腺肥大症や骨盤臓器脱によって排尿が困難になると、尿が溜まって膀胱が伸びたり、無理に排尿しようと膀胱に圧力を加えたりして、膀胱の機能が変調をきたすことがあります。

これらの要因が複合して、過活動膀胱になることがあります。

施術のポイント

膀胱と周囲の組織がつくる過緊張を緩和し、小さな刺激にも反応する過敏性を軽減することを目的として、「仙骨部への操作・矯正」と「膀胱へのマニピュレーション」を中心に施術をおこないます。

仙髄中間外側核(S2-S4)からの副交感神経が尿排出機能を制御し、胸腰髄中間外側核(Th10-L2)からの交感神経が蓄尿機能を制御しています。

排尿に関する神経支配を重視して、脊柱両側の皮膚温度差を測定しながら、矯正刺激を加えるべき脊柱高位を絞り込みます。

とくに、仙髄排尿中枢への抑制刺激として、仙骨部の反応(固着や歪み)に対して操作・矯正を施します。さらに、内臓の働きと関係が深い第2頚椎-第3頚椎にも矯正刺激を加えることがあります。

1.仙骨への矯正刺激激

排尿に関する神経支配として、副交感神経は仙髄中間外側核(S2-S4)から出て骨盤神経となり、膀胱のとくに尿排出機能を制御します(武田ほか,2009)。

北小路ほか(1995)は、過活動膀胱に対する鍼療法として、中髎穴(第3後仙骨孔部)への刺鍼刺激が有用であったことを報告しています。

仙髄排尿中枢(S2-S4)への治療刺激として、第一に仙骨にみる固着・歪みを整える方向にリズミカルな矯正を施しながら、過緊張状態の軽減を促していきます。その効果をみながら、必要により中髎穴への鍼療法を追加します。

2.胸椎-腰椎部への矯正刺激

排尿に関する神経支配としては、交感神経は胸腰髄中間外側核(Th10-L2)から出て、下部神経となり膀胱・尿道のとくに蓄尿機能を制御します(武田ほか,2009)。

そこで、交感神経レベルで調和をもたらす治療刺激として、胸椎-腰椎部にみる固着・歪みを整える方向にリズミカルな矯正を施します。

3.上部頚椎への押圧・矯正

「特にC2とC3は内臓と関係がある。…頭部の関節と上頚部を治療して副交感神経の代償を生み出し、器官を治療することが欠かせない」とされます(ヘブゲン,2015,p.7)。

C2横突起の付近には、交感神経の上頚神経節や迷走神経の上神経節が走行しています。C2の固着や歪みは、これら神経の働きを阻害するかもしれません。そこでC2を中心に、上部頚椎の固着・歪みを整える方向に矯正刺激を施します。刺激に過敏な場合は、持続的な押圧を加えます。

膀胱と周囲組織にみる緊張・機能障害を改善するように、内臓マニピュレーションをおこないます。膀胱と恥骨の間に軽く圧をかけながら、恥骨膀胱靭帯や恥骨尿道靭帯の緊張を解放していきます。

さらに、陰部神経刺激点を中心に、押圧刺激・マニピュレーション操作も施します。

4.坐骨直腸窩への刺激

「仙髄S2-S4のオヌフ核から出る陰部神経は尿道や外尿道括約筋に分布して蓄尿機能を制御する」といわれます(武田ほか,2009)。そして、排尿障害に対する陰部神経刺鍼の効果が報告されています(山際ほか,1993)。

陰部神経は、「坐骨直腸窩の外側壁に作られた筋膜性の管(陰部神経管)のなかを走行」しており、坐骨直腸窩の「外側壁を作るものは内閉鎖筋の下部とこれを被う骨盤筋膜」です(スネル,1989,p.301)。

ヘブゲン(2015,p.22)の坐骨直腸窩へのマニピュレーションを参考に筋膜をリリースしながら、陰部神経への緊張を緩和していきます。

北小路ほか(1986)の研究をみれば、坐骨直腸窩のなかに、排尿障害への刺鍼にもちいられる陰部神経刺激点が含まれると思われます。まずは、坐骨直腸窩のなかで陰部神経刺激点を中心に、手技による押圧刺激・マニピュレーション操作を施します。その効果をみながら、必要により陰部神経刺激点への鍼療法を追加します。

5.恥骨膀胱靭帯への押圧・操作

膀胱は、恥骨のすぐ後ろに位置しています。成人において、膀胱が空虚な状態では、その全体が骨盤腔内におさまっています。膀胱が尿で満たされるにしたがい、膀胱は上方へと拡大して腹腔内へと伸び出します(スネル,1989,p.266,269)。

膀胱をつなげる靭帯には、恥骨膀胱靭帯、恥骨尿道靭帯があります。「靭帯の停止部は神経線維が豊富なため筋腱の受容器よりも大きな反応を起こす。過剰負荷が持続することによって…靭帯停止部の神経線維が活性化される」といわれます(エダー・ティルシャー,1997,p.35)。

膀胱と恥骨の間に軽く圧をかけながら、緊張を解放していきます。さらに、腰椎-骨盤-下肢を動かしながら、膀胱や尿管にも伸展刺激を施していきます。

治療刺激の持続を目的として、過活動膀胱に関連するツボを円皮鍼で刺激します。施術効果をみながら、不足があれば鍼療法(パルス鍼も)を併用することもあります。

効果の予測

過活動膀胱の治療には、薬物治療、物理的刺激治療、生活指導、膀胱訓練、骨盤底筋体操などがあります。当治療院の施術は、手技による物理的刺激治療です。

過活動膀胱を主訴として当治療院に来院される方を拝察するなかで、弱くなった骨盤底筋を強化する体操を習慣づけて実践されると、より望ましい効果が得られるように見受けられます。

膀胱訓練や骨盤底筋体操の効果が現れるまでには、数か月かかるといわれます。目安としては、2~3カ月の継続した手技による物理的刺激治療と自宅でのエクササイズが合わさって、望ましい効果が持続するものと予想しています。

付 記

切迫性尿失禁の典型

1) ドアノブ尿失禁

玄関のドアを開けようとしたとき、トイレのドアノブに手をかけたとき、トイレで下着を下ろそうとしたときなど、トイレまで“あともう少し”というところで尿もれが起こります。

2) 手洗い尿失禁

炊事や洗濯で水に触れたとき、冷蔵庫を開けたときなど、寒冷刺激が引き金となって尿もれがおこります。

腹圧性尿失禁は、クシャミ・咳が出ると尿がもれる、重い物を持つと尿がもれるなど、おなかに力が入ったとき尿がもれてしまいます。

切迫性尿失禁のなかには、腹圧性尿失禁も重なった混合性尿失禁があります。

過活動膀胱があると生活の質(quality of life: QOL)が損なわれます。

・ 外出先で、いつもトイレの場所を気にしている

・ 外出するのが嫌になる

・ 長時間、中座できない状況に不安がある

・ 家事や仕事の妨げになる

・ 気分が落ち込む

・ 夜何度もトイレのために起きることで睡眠不足になる

過活動膀胱は、男女に関係なく発症します。全体的には、年齢が高くなるにつれ患者さんの割合が増えます。

「これまで、高齢男性では尿を排出しにくく、高齢女性では尿が漏れるのが問題とされてきたが、---高齢期になると男性・女性ともに蓄尿の問題と排尿の問題を同時に有するようになる」ようです(岡村ほか,2007,p.6)。

「排尿の問題は後期老年者で増加すると考えられてきた。しかし、実際には排尿の問題は40歳台から生じてくるものであり、考えられてきた以上に頻度の高いことが明らかとなった」とされます(岡村ほか,2007,p.5)。ところが、若い年代でも過活動膀胱に悩む人は少なくないのかもしれません。

過活動膀胱は、QOL(生活の質)を下げる疾患と認識されています。子供の過活動膀胱は、学校生活の妨げとなります。お母さんが悩んだ末に、お子さんと治療院に来院されることがあります。大人でも、とても緊張するとトイレに行きたくなります。子供は膀胱の容量が小さく、ストレスに弱いこともあり、頻尿になる要素が大きいのかもしれません。

蓄尿・排尿は、自律神経のバランスによって制御されています。排尿時には副交感神経が優位となり、膀胱は収縮して尿道は弛緩します。蓄尿時には交感神経が優位となり、膀胱は弛緩して尿道は収縮します。さらに、尿がたまって膀胱が引き伸ばされる感覚が、脊髄‐脳と伝達されます。脳は、時と場所をわきまえ判断し、排尿の指令を送ります。膀胱と尿管は、脳からの指令を受けて排尿がおこなわれます。

交感神経が働く活動中は、排尿が抑制されています。ストレスは交感神経を興奮させるので、本来なら排尿は抑制されるはずです。ところが、ストレスが脳に伝達されるとき、同時に排尿を制御している領域も刺激して、尿意をもよおすことがあります。

脳はストレス刺激を誤認して、「オシッコを出してよし」という指令を膀胱や尿道に送ることがあります。とくに寒冷ストレスには、誤って反応してしまいます。手洗い尿失禁は、寒冷刺激が引き金となり、切迫した尿意・失禁を引き起こします。子供は、尿を我慢する機能や神経系が十分に成熟していないので、小さなストレスにも過敏に反応してしまうのでしょう。

夜尿症(おねしょ)は、就寝中に自覚のないまま尿をもらしてしまうものです。過活動膀胱による夜間頻尿は、尿意により目が覚め、トイレに行く途中で尿がもれてしまう場合があります。けれども、寝ているとき無意識に尿をもらすことはありません。大人の夜尿症は、睡眠障害やストレスが関係するといわれます。

近年、過活動膀胱の疾患概念が「検査による他覚的な膀胱機能の異常よりも、尿意切迫感という主観的な膀胱の知覚異常にまず力点が置かれるようになった」とされています(北小路ほか,2006)。

尿意切迫感は、細菌性膀胱炎・膀胱結石・膀胱腫瘍によっても起こります。病院の検査によって、感染など他の疾患との関連が除外されて、治療院での施術が適応になります。

膀胱の知覚神経には、尿がたまって膀胱が伸ばされたという情報を伝えるAδ線維と、侵害刺激(痛み)や冷温刺激を伝えるC線維があります。「過活動膀胱ではC繊維活動の亢進が病態に強く関与している」といわれます(北小路ほか,2006)。

正常な排尿反射は、膀胱‐Aδ線維‐脊髄(仙髄排尿中枢)‐脳幹部(橋排尿中枢)‐大脳という経路で、膀胱の伸展を伝えています。C繊維は、膀胱の伸展には反応しません。

ところが、膀胱に侵害刺激が加わり続けると、C線維が活性化され、膀胱の伸展刺激に反応するようになります。そして、C線維経由の仙髄排尿反射が形成されます。この経路は脳を介さないため、脳からの指令とは無関係に、膀胱の神経に直接作用して、尿意切迫感や頻尿を引き起こします。

過活動膀胱をもたらしているC線維の活動を抑制するように、仙骨部を中心に操作・矯正刺激を加えていきます。太い神経の働きは、細い神経の働きを抑制します(ゲートコントロール理論)。関節覚や皮膚の動き感覚(触・圧・振動)を刺激することで、C線維活動の亢進がもたらす緊張度を軽減してくれます。仙髄排尿中枢はS2-4にあり、この責任高位への操作・矯正は、過活動膀胱に関与するC線維の活動を抑制していきます。

鈴木裕視医師(1995)は、各種和痛手技の統一的治効試論を示すなかで、「カイロ直後の快感はすばらしいが持続性に不満がある」として、カイロプラクティック・操体法・鍼療法・ホームエクササイズを組み合わせることを述べています。病態が進んでいるときは、カイロプラクティック・アジャストメント(矯正刺激)を一日に数回、時間をおいて施す場合があります。しかし、この施療方法が難しい患者さんが多数おいでになります。そこで、当治療院では鈴木先生の試論を取り入れ、複合的な治療刺激をもって尿意伝達機構における調整メカニズムに働きかけていきます。

過活動膀胱は、膀胱の知覚が過敏な状態になっています。そのため、少量の尿がたまったり寒冷刺激を受けたりすると、小さな刺激にも強く反応して膀胱が収縮し、急におしっこがしたくなります。

この尿意切迫感は、肩こりという自覚症状と似ています。

とても肩の筋肉がこっていても肩コリを感じていない人もいれば、わずかなコリ感にも強い肩コリを訴える人もいます。つまり小さな侵害刺激でも、それを過敏に強く感じている人が、いわゆる肩こりなのです(詳細:いわゆる“肩こり”への施術)。肩こりには、カイロプラクティック・マニピュレーション・鍼療法は、良い効果が認められています。同様に、過活動膀胱にみるような緊張度を軽減し、機能改善を促す方法としても適するものと思われます。


エダー・ティルシャー:中川貴雄・野呂瀬紘未訳(1997)カイロプラクティック・セラピー診断と治療.科学新聞社.

岡村菊夫・野尻佳克・大島伸一(2007)一般内科医のための高齢者排尿障害診療マニュアル.国立長寿医療センター泌尿器科.http://www.ncgg.go.jp/hospital/iryokankei/documents/urination_manualv2.pdf,(参照日2016年12月8日).

ヘブゲン:平塚晃一監・池田美紀訳(2015)オステオパシーの内臓マニピュレーション(2)ガイアブック.

北小路博司・本城久司・中尾昌宏(2006)過活動膀胱に対する鍼治療の現状と展望.明治鍼灸医学,38:p.1-7.

北小路博司・北村清一郎・松岡憲二・金田正徳・中村辰三(1986)陰部神経刺鍼の解剖学的検討.全日本鍼灸学会雑誌,39(2):p.221-228.

北小路博司・寺崎豊博・本城久司・小田原良誠・浮村理・小島宗門・渡辺泱(1995)過活動性膀胱に対する鍼治療の有用性に関する検討.日本泌尿器科学会雑誌,86(10):p.1514-1519.

スネル:山内昭雄訳・飯野晃啓訳(1989)スネル臨床解剖学(5)メディカル・サイエンス・インターナショナル.

鈴木裕視(1995)力学的和痛手技療法の治効促進.日本人の体質劣化対策(3).東三河医学会誌,17:p.31-42.

武田正之・荒木勇雄・澤田智史・中込宙史・望月勉・小林 英樹・座光寺 秀典(2009)排尿障害の病態と新しい治療.臨床薬理,40(5):p.191-199.

山際賢・北小路博司・佐々木和郎・石丸圭荘・大山良樹・木下緑・渡辺勝久・岩昌宏・北出利勝・中村辰三・金子宏(1993)排尿障害に対する陰部神経刺鍼法のテクニック.全日本鍼灸学会雑誌,43(2):p.53-57.