腰椎すべり症

症状・原因

腰椎すべり症は、不安定になった腰椎が、正常な位置から前方に移動したことを要因とする腰殿部痛や下肢痛のことです。

腰椎が不安定になる原因として、関節突起間部が分離したことによる「分離性すべり症」と、分離は伴わないが椎間関節や椎間板の変性による「変性性すべり症」があります。

ただし、腰椎に分離やすべり症がおこっても、腰痛が発症するとは限りません。

分離性すべり症

椎骨は、前方に椎間板のついている “椎体”、後方に椎間関節のついている “椎弓”があります。

この椎体と椎弓が分離した状態を「腰椎分離症」といいます。支持を失った椎体が、上の椎体を乗せたまま、椎弓を残して前方に移動した状態が「分離すべり症」です。分離発生は、第5腰椎に最も多いとされます。

腰椎の分離と前方すべりにより椎間板が変形して、間隙を狭小化することがあります。分離すべり症になると、第4腰椎棘突起と第5腰椎棘突起の間で、階段状の段差を触れるかもしれません。分離部では、線維軟骨化と骨棘形成がおこり、神経根や脊柱管での圧迫刺激が生じることもあります。

分離の原因は、骨格の未発達な成長期に、スポーツなどによる負荷が累積しておこった疲労骨折とされます。骨格の成長停止後の発生は、まれといわれます。

変性性すべり症

四足動物の脊柱を考えれば、基本的に腰椎は、前にすべり出すような構造をしていません。ところが加齢変化により、椎体と椎弓が分離していないのに、腰椎が前方に移動することがあります。これが「変性性すべり症」です。

とくに、第4腰椎の前方へのすべり出しが認められます。中年以後(50歳以上)の女性に多いとされます。無症状の人にも、かなりの頻度ですべり症が認められるといいます。

変性性すべり症は、加齢による関節症性の変化を要因とする腰痛です。以下のような特徴的な症状がみられます。

1) すべり現象

・ すべりが著しい場合は、腰椎に階段状の変形が触知できる

・ L5椎体が仙椎の上ですべている場合が多い

・ L4-L5に階段状の段差を触れることができる

・ すべり部に一致して背部にへこみがある

・ へこみは、からだを前屈すると著明に現れる

・ 階段変形が認められる場合は、腰の反り返りが増強していることがある

2) 痛みの部位

・ 腰痛は、主に腰椎下部や仙腸関節部に現れる

・ 第4腰椎-第5腰椎の椎間関節部には、著明な圧痛が認められる

・ 椎間関節に関連して、殿部から大腿前面への放散痛がある

・ 椎間孔で坐骨神経根が刺激を受けると、膝裏から足先に痛みやシビレが生じる---※

・ 脊柱管で馬尾神経が絞扼されると、下肢の痛み、シビレ、重圧感、脱力感、間欠性跛行を呈したりする---※

3) 徐々に発症

・ 変性性すべり症は、徐々に発症しながら腰痛を繰り返し、慢性化の経過を示す

・ 重苦しく鈍い痛みがつきまとう

4) 不安定性の増大

・ 腰に不安定感がある

・ 腰がずれるような感じがする

・ 運動で腰痛が増悪する

・ 安静で腰痛が緩解する

・ 安静時には、ほとんど症状感じない

5) 関節のこわばり

・ 腰にこわばりやきしり音を感じる

・ 同じ姿勢を長時間続けると、かたまって痛みが増悪する

・ 起床時や動作開始時に強く痛む

・ からだを動かしているうちに痛みは軽減する

施術のポイント

可逆的な要因  … 神経根炎、関節機能の低下、過緊張や疲労、周囲組織の浮腫など

不可逆的な要因 … すべり現象、アラインメント異常・腰椎全体の歪み、椎間板の変性、椎間関節の変性など


腰椎すべり症には、変形性腰椎症と同様に「可逆的な変化」と「不可逆的な変化」があります。不安定になった腰椎が前方にすべり出すという構造的な変化に、神経根炎・関節機能の低下・過緊張や疲労・周囲組織の浮腫などが加わって腰痛を発症していると考えられます。

当治療院のマニピュレーション操作・矯正は、関節機能の回復を促します。とくに、可逆的な要因を改善することを目的に「椎間関節の操作」「仙骨からの矯正」「下肢からの牽引操作」をおこないます。

基本操作・矯正(カイロプラクティック)

椎間関節の操作

椎間関節症が好発する第5椎間関節や第4椎間関節を中心に、過緊張にある腰椎の固着をゆるめて機能回復を促すように、マニピュレーション操作・矯正刺激を施します。

こうして運動神経をたくさん刺激することで、感覚神経の働きが抑制されて痛みに過敏な状態が和らぎます。また、関節を動かすことで血液循環も増大するので、炎症が和らいだり障害された組織の治癒も促されたりします。

仙骨からの矯正

下部腰椎にすべり現象がおこると、腰の反り返りが強くなります。すると、椎間関節面が過剰に刺激されて痛みを誘発します。また、椎間板にも無理な力が加わり、変性を助長します。

前方にすべった腰椎をひねり出す方向へ、仙骨から矯正刺激を施します。

ただし、一撃で「骨のズレが治す、腰椎を正常な位置に戻す」という操作ではありません。この矯正刺激は、過緊張の緩和と関節の機能回復を促すことで、間接的に腰椎の正しい位置を再学習させることを目的とします。

下肢からの牽引操作

腰椎が不安定になると、協調して働いている骨盤-股関節-膝関節にも無理が波及します。そこで、腰椎の反り返りを減らす方向に導くように、下肢から牽引操作をおこないます。

腰椎すべり症は椎間関節の変化を基調とした複合的な症状であるから、下肢からマニピュレーション操作を施して、全体の調和を整えます。全体的に自然治癒力の働きを促すことで、椎間関節周辺の加齢による変化にも良い影響が期待できます。

効果の予測

当治療院がおこなうマニピュレーション操作・矯正は、すべり出した腰椎の配列を元の位置にもどすものではありません。しかし、可逆的な要因を改善していくことで、症状が緩解することは可能でしょう。すべり現象があっても腰椎の機能回復を促すマニピュレーション操作・矯正は、試す価値は十分にあると思います。

経過の長い複合的な病態ゆえに、炎症の軽減と関節機能の回復を促すためには、根気よく施療を継続する必要があります。継続した施術に加えて、腰椎の反り返り(前彎)を減らしたり筋力を強くしたりするホームエクササイズもおこなうことで、望ましい効果は期待できるものと考えます。

週1~2回の施術を継続して受けていただきながら、腰椎の不安定性を助長しないよう徐々に治療刺激を増していきます。慢性化した炎症が和らぐのに1か月、腰椎の関節機能が促されるのに1か月として、2か月を一つの目安に施術をプログラムします。

焦点を絞った施術を、

すべり症のように腰椎の不安定性が増しているときは、急いで筋肉をゆるめたり関節の動きを高めたりしてはいけません。腰椎の不安定性を増して、すべり現象を助長する恐れがあります。

腰椎の不安定性を悪化させずに可逆的な問題の改善をはかるためにも、下部腰椎-仙骨に集中して矯正刺激を施していきます。

加齢に伴う腰椎すべり症の患者さんには、肩こりや膝関節痛など、腰痛以外にも様々な症状がみられます。しかし、いろいろと施術を広げていくと、治療刺激の過多になります。腰椎すべり症の場合は、下部腰椎-仙骨に焦点を絞った施術の方が、功を奏すると思われます。

付 記

痛みの要因

変性性すべり症は、変形性腰椎症と同様に、複合的な要因が重なって腰痛を発症しているものと予想されます。

1) 筋肉による痛み

加齢による椎間板や椎間関節の変性、靭帯のたるみ、筋肉の弱化により、腰椎が不安定になります。支持を失い不安定になった腰椎は、全体が前方にすべり出します。

腰椎がすべり出すことで、いっそう不安定性が増大します。筋肉は不安定な腰部を支えて緊張を強いられ、疲労を蓄積して筋筋膜性腰痛となります。

2) 椎間関節による痛み・こわばり

関節症性の変化により適合性が悪くなり、不安定になった椎間関節は、異常動揺によって椎間関節包に分布する知覚神経が刺激されます。こうして椎間関節性の腰殿部痛が引き起こされます。

さらに、腰椎が前方にすべり出すことで、腰の反りかえりが強くなります(前彎増強)。椎間関節の噛み合わせが深くなることで、関節面に無理がかかり、関節症性変化が助長されます。

過剰な緊張と異常な動揺刺激により、関節包は肥厚してこわばって安定を保とうとします。その結果、関節の動きは悪くなり、違和感を強くしていきます。

3) 椎間板ヘルニアの合併

腰椎が前方にすべり出すと、すべり直下の椎間板に無理がかかります。そして、椎間板の変性を助長しながら、高頻度にヘルニア(椎間板膨隆)を形成するといいます。

関節症性変化に炎症や浮腫、椎間板ヘルニアが加わり椎間孔を狭くします。椎間孔で坐骨神経が刺激を受けると、神経経路に痛み、知覚障害、筋力低下が現れます。

4) 脊柱管狭窄症への移行

腰椎のすべり出しが著しくなると、脊柱管が狭小化されます。さらに、腰の反りかえりが強くなる(前彎増強)と、黄色靭帯や後縦靭帯がたるみ、突出して脊柱管を狭くします。脊柱管で馬尾神経が絞扼されると、下肢の痛み、シビレ、重圧感、脱力感が現れたり、間欠性跛行を呈したりします。

腰椎すべり症があっても無症状の方は少なくないといわれます。そのため、階段変形や腰椎の前彎増強がみられても、それが腰痛の直接的な原因だとは、安易に判断できません。

ただし、次のような場合は「分離・すべり症」として、慎重な対応を必要とするかもしれません。

1) 中学・高校のとき、激しいスポーツをおこなっていた

2) 著しい階段変形が認められる

3) 愁訴の緩解が、なかなか得られない

4) すべり症が確認でき、かつ「※」のような痛みがあるとき

症状の改善をはかりながら時期をみて、不安定な腰部を保持するための筋力を強化するホームエクササイズをお勧めします。健康度をはかるバロメーターとして筋力や姿勢に注目しながら、構造的な変化により弱化した腰部の機能回復や強化を促します。