変形性腰椎症

症状・原因

変形性腰椎症という腰痛は、老化による腰椎、および周辺組織の変性が複合した障害です。椎間板の退行変性、椎体の骨棘形成、血液循環の低下、関節の不安定性に基づく靭帯の緊張・筋肉の疲労、関節包の肥厚、滑膜の炎症、浮腫など、さまざまな要因が複雑に加味されて腰痛を発症します。

複数ある痛みをつくる要因は、「複合的な腰痛」「下肢への神経症状」に分けて理解できます。

複合的な腰痛

日常的に負担の大きい下部腰椎では、加齢による変性が生じやすくなります。変形性腰椎症の痛み・圧痛は、L4-5椎間関節部(L4椎関)とL5-S椎間関節部(L5椎関)にみられます。

変形性腰椎症は、椎間関節症が大きく関与した腰痛と解釈できます。


→ 関節の適合性が悪くなり関節が不安定になると、関節包や靭帯が緊張を強いられます。

→ 緊張下のなかで炎症がつくられると、関節包は肥厚して弾力性が減少していきます。

→ 腰椎関節面の不安定化は、椎間板や筋肉にも負担をかけます。

→ 長期にわたり緊張下にあると血液循環を阻害して、痛み刺激に過敏な状態をつくります。

→ このような変化により弱化した関節は、小さな負荷にも障害されます。


こうしてギックリ腰を繰り返しながら、痛みの悪循環を形成し、関節症性変化は助長されていきます。とくに椎体周辺の循環障害は、退行性変化を促進させます。

下肢への神経症状

→ 椎間板が変性して、後方に突出しながら椎間孔を狭くする

→ 不安定になった腰椎が、前方に辷り出して椎間孔を狭くする

→ 骨棘の形成によって椎間孔が変形して狭小化する

→ 関節包が肥厚して椎間孔を狭くする

→ 浮腫や靭帯の緊張により、神経根の絞扼を増強される


上記のような構造的変化により、坐骨神経根が刺激され、下肢痛が生じることがあります。さらに、腰椎全体の歪み(アラインメント異常)も重なり、脊柱管が狭くなると馬尾神経が絞扼されます。

症状の特徴として

・ 年齢は50歳以上で、他の起因疾患を見出し得ない。

・ 比較的徐々に発症し、慢性の経過を示す。

・ 激烈な痛みではない。

・ 起床時に鈍く、重苦しい痛みがある。

・ からだを動かしていくうちに、次第に痛みが軽減する。

・ 前屈痛、後屈痛、側屈痛など、腰をさまざまな方向の動かしても、痛みの増悪をみる。

・ 同じ姿勢を長時間続けると痛みを感じる。

・ アキレス腱反射の減弱、触覚障害などの神経学的所見はみられない。

施術のポイント

可逆的な要因  … 神経根炎、関節機能の低下、過緊張や疲労、循環障害や浮腫など

不可逆的な要因 … 椎間板の変性、椎間関節の変性、椎体の骨棘形成など


変形性腰椎症でみられる変化には、「可逆的な要因」と「不可逆的な要因」があります。

施術は、可逆的な要因を改善することを基本として、「椎間関節の機能」「椎間関節に負担をかける姿勢」「下部腰椎-骨盤-股関節の協調運動」の改善をはかります。

椎間関節性腰痛の施術と異なる点は、下部腰椎-骨盤-股関節の協調運動を重視しているところです。

骨性の変化のような不可逆的な要因が、痛みの直接的な原因なら、保存療法は不適当かもしれません。しかし、炎症や過緊張、関節の機能障害が複合して痛みをつくっているなら、回復を促すことは可能でしょう。

可逆的な要因を改善することで、椎間関節に加齢による変化がみられても、痛みを軽減できるものと考えます。 とくに、椎間関節の周辺にみられる慢性化した炎症が、痛みの大きな要因となります。

椎間関節の機能

椎間関節症が好発する第5椎間関節や第4椎間関節は、変形性腰椎症の原因部位ともなります。この責任高位を中心に、関節をゆるめるように、関節面に沿ったマニピュレーション操作を施しながら、椎間関節の機能回復を促します。

こうして関節の可動域が広がると、運動神経がたくさん刺激されます。すると感覚神経の働きが抑制され、痛みに過敏な状態が和らぎます。また、関節が動くことで血液循環も増大するので、障害された組織の治癒も促されます。

椎間関節に負担をかける姿勢

悪い姿勢が持続されると、椎間関節に負荷をかけて腰痛を増悪させます。とくに第5腰椎-仙椎がつくる角度(腰仙角)が大きくなると、腰椎の反り返りを深くするとともに、変形性腰椎症を悪化させます。

そこで第5腰椎-仙椎を中心に、姿勢を整える方向へ矯正刺激を軽く繰り返し施します。

下部腰椎-骨盤-股関節の協調運動

変形性腰椎症を好発する下部腰椎に障害がおこると、協調して働いている骨盤‐股関節にも悪影響を与えます。骨盤‐股関節の動きの悪い人は、その不足した機能を下部腰椎に負担をかけて補います。

そこで、下肢からの運動・マニピュレーション操作を施しながら、協調して働く関節機能の回復を促します。とくに、仙腸関節部に強い圧痛が認められる方、殿部から大腿外側にかけて痛みが放散する方には有効です。

感覚受容器も刺激して、

股関節の周辺には、感覚受容器が豊富にあります。矯正テーブルによる靭帯を伸張する刺激、器具を用いた振せん刺激を施しながら、からだが正しい姿勢を再認識するよう促します。

椎間関節性腰痛と同様に、椎間関節の変形や周辺組織の変性が予想される年配の方への施術は、強い治療刺激は不適当です。

そこで関節操作・矯正の後は、痛みをつくる神経(脊髄神経後枝)の興奮を抑制するように、腰椎棘突起の際に円皮鍼を施します。

円皮鍼による持続的な治療刺激は、加齢に伴う複合的な腰痛には、おだやかに作用しながら痛みと緊張を緩和するものと考えます。

効果の予測

変形性腰椎症は、加齢による椎間関節の退行性変化を基調とするものです。ただし、椎間関節性腰痛よりも広い範囲で、協調して働いている関節に症状が波及しているかもしれません。とくに、下部腰椎-骨盤-股関節の機能低下がみられます。そのため、より長く継続した加療+養生が必要となります。

ただし、単に関節の機能改善・可動性改善だけでは、関節の不安定性が増して侵害刺激が発せられ、痛みと緊張を増大させます。ある程度の機能改善がなされたら、筋力を強化して腰椎を保護するための運動・ホームエクササイズをご提案いたします。

骨性の変化が認められる病態のため、長期にわたる神経への圧迫症状がみられるときは、施術を加えても症状が残ることがあります。4回を目安に施術を継続するなかで、効果をみながら施術を計画していきます。

付 記

加齢による骨性変化

腰椎の骨変化の他に、明確な原因疾患が見当らないとき、お年寄りの慢性腰痛を総称します。ただし骨性の変化は、年齢による生理的な現象です。50歳以降になると大半の人に、腰椎のレントゲン検査で骨棘形成などの変化が認められるといいます。


加齢による腰椎の骨変化は、次のようにして現れます。

→ 椎骨と椎骨の間には、やわらかい椎間板があります。

→ 年齢とともに、椎間板の水分量が減少すると、厚みが減ったり椎骨の辺縁部からせり出したりします。

→ 椎間板の厚みが減ると、関節面に機械的なストレスが加わり、関節軟骨の表層が摩耗します。

→ 椎間板が椎骨の辺縁部からせり出した部分も刺激を受けて、骨の増殖による骨棘が生じたりします。

変形性腰椎症は、加齢による椎間関節の退行性変化を基調に、複数の要因が重なって発症します。そのため、椎間関節性腰痛と類似した症状がみられます。とくに、腰椎の動きと密接に関連して好発する腰痛は、同じようにL5椎関またはL4椎関で認められます。

下部腰椎に関連して、殿部(腸骨稜の上縁、上後腸骨棘の外縁、大殿筋の上縁) -大腿外側-膝の前面に、鈍い痛みが放散することがあります。それに合わせて、協調して働いている下部腰椎-骨盤-股関節の機能低下・可動性低下がおこります。

椎間関節性腰痛と異なる症状として、椎間孔の狭小化によって坐骨神経根が刺激を受けることがあります。